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追憶の自転車

小学生の時は「サイクリング車」と呼ばれる黒い自転車に乗っていた。
センターチューブの上に大きなギアボックス、大きなレバーで5段変速を操る。
フレームやライトのロボットライクなデザインも、小学生の心を捉えた。



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自転車は、活動エリアを何倍にもしてくれる夢のマシンだった。
友達と一緒に何十キロも走った。
帰りの事も考えずに、どこまで行けるか確かめた。
あの山まで行こう!
海まで行ってみよう!
地図も持たず、大きな交差点ごとに棒を倒して「未知」を探しに行ったこともある。
時には遠く離れた土地で補導員に保護された。

高学年になる頃、ロードバイクというものを知った。
軽くて早い・・・そのスマートさに憧れた。

中学生になると今までの自転車ではサイズが合わなくなった。
そこで少年向けロードバイクとも言える「ROADMAN」という自転車を買ってもらった。
初めてのドロップハンドル、初めてのWレバー。
パーツ交換やオプションによってオリジナル仕様にできた。



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通学は自転車、買い物も自転車、休日も自転車。
歩く距離も自転車で行くが、電車を使う距離も自転車で行った。

学校帰りに時々Tさんと一緒になることがあった。
Tさんは妙に僕に馴れ馴れしい女生徒だった。
田舎道をしばらく一緒に走る。
彼女の髪から、整髪料の香りと教室の匂いが入り混じって流れてくる。
「こんなスピードじゃ疲れるから先にいくぞ!」
そう言って、いつも途中から彼女を振り切った。
見え見えの照れ隠し。
彼女は、僕の帰りにタイミングを合わせていたのだろうか・・・

休日は友人ととにかく走った。
顔にあたる温度、さまざまな香り・・・
その空気は、目に見えないけどボーダーなのを感じた。
いろんな光景が見え、いろんな光景を妄想した。
距離だけではなく、イマジネーションも拡がる。
自転車さえあれば、何でもできる気がした。

高校生になっても自転車が好きだった。
でも乗る機会は次第に減っていった。
高校の友人の家が遠いため移動はもっぱら電車になった。
軽音部に入り音楽に夢中になった。
休日も音楽三昧になった。

大学生になると自動車運転免許を取った。
移動は電車と自動車に代わった。
すべての中心に音楽があった。

就職すると移動に時間を掛けないのが基本になった。
出張も増えた。
家族ができた。
そして音楽を忘れた。

あの自転車は、錆びつき朽ち果てたまましばらく実家にあったが、いつの間にか無くなっていた。
捨てられたと聞いた時も、何とも思わなかった。


二十数年、がむしゃらに仕事をした。
ずっと自分との闘いだった。
ずいぶん無理もしてきた。

そんな時、Perfumeを知った。
強烈なインパクトで一気に引き込まれた。
音楽の素晴らしさを思い出した。
再びいろんな音楽を聴くようになり、ライヴにも行くようになった。
同じ趣味の友人と語うことの楽しさも思い出した。
自分の中に血が通っている実感を持った。

ただ、何かを思い出しそうで思い出せない感覚をずっと引きずっていた。
それが何なのかは、その後5年経ってようやく思い出した。


自転車に乗りたい!


自転車は遠い昔の友人。
Perfumeは、音楽だけではなくたくさんの大切なもの思い出させてくれる。
そうやって、僕をカタチ作っているものを教えてくれる。
忘れたかった経験も、今の僕の一部になっている。
それなのに、ある時期は「いい思い出」までも忘れそうになっていた。

いても立ってもいられず、妻にも相談せずに中古のロードバイクを買った。



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久々に乗ってみると、腕や尻が痛かった。
なまった身体に時の経過を感じ、久々に帰省したような妙な嬉しさを覚えた。
ボーダーな空気が、「おかえり」と優しく迎えてくれる。
いろいろと経験を積んだ分、イマジネーションが豊かに拡がる。
繰り返される既視感が、それを激しく刺激した。

沼を周り、土手を走り、街を巡った。
そしていつの間にか母校の中学校に来ていた。
久しぶりに見る校庭は、とても狭く見えた。

テニスコートからストロークの音と掛け声が響く。
自分がそこにいたのはそんなに昔じゃないような気がしてきた。
いやいや・・・
僕は薄笑いを浮かべながら、校舎を背にして走り出した。

前を見ると、セーラー服の女生徒が自転車で走っている。
揺れるポニーテール、首から肩あたりの雰囲気に見覚えがある。
横を通り過ぎる時に少しずつ見えてくるその横顔は・・・

Tさん!?

急に、彼女を置いてきぼりにしたような罪悪感が蘇った。
僕は前だけを見て、女生徒の横を一気に走り過ぎて行った。
微かに整髪料と教室の匂いがした。

Tさんの娘さんなのか?

彼女は幸せにしているのだろうか?
Tさんだって同じだよね。
あの時のささやかな思い出が、今のTさんの一部になっているはずなんだ。
それで、今が幸せなら嬉しいのだけど・・・

今の女生徒、いい子そうだったな。
あの子がTさんの娘さんだといいな。


振り返ってはいけないような気がして、僕はそのままペダルに力を入れた。




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コメント

自転車に乗って♫
私の好きな歌で西岡恭蔵さんの歌があります
http://youtu.be/Y8RhwAkak_I
ぜひ、聴きながら電脳猫さんのこの記事を読んでみてください
なんか、甘酸っぱい想いが倍増しますよ
>セラミックおじさん
コメントありがとうございます^^

>私の好きな歌で西岡恭蔵さんの歌があります

懐かしいですね~
懐かしすぎてすっかり忘れていました(^^;)
改めて歌詞を聴くと、セラミックさんがこの曲を思い出したのがよくわかります。
ってゆーか、めっちゃ共感します(*^_^*)

>ぜひ、聴きながら電脳猫さんのこの記事を読んでみてください
>なんか、甘酸っぱい想いが倍増しますよ

ピッタリすぎます!
素晴らしいご提案をありがとうございます。
ちなみにこの記事はノンフィクションで~すo(^-^)o
懐かしい
ありましたね、こういう自転車。
少し年上のお兄さん達が持ってると
欲しくて欲しくてたまらなかった覚えがあります。
今乗っておられるMASIも大人な仕様でかっこいいです。

自転車もPerfumeも今のelectrocatさんにとって必要な物なんだろうなと感じました。
>mtstさん
コメントありがとうございます^^

>ありましたね、こういう自転車。

懐かしいでしょ?(*^_^*)

>少し年上のお兄さん達が持ってると欲しくて欲しくてたまらなかった覚えがあります。

僕がそのお兄さんですww

>今乗っておられるMASIも大人な仕様でかっこいいです。

もっと言ってください(笑)

>自転車もPerfumeも今のelectrocatさんにとって必要な物なんだろうなと感じました。

そこ、深~く考えてしまいました。
どちらも無邪気になれるもの・・・なのかもしれません(^^)

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