HOME>Perfume

笑わない男

Fはおでこを床にこすり付けていた。
担当をしていた部下の主張がクライアントを怒らせてしまったのだ。
クライアントの要求通りに作ることは簡単なことだった。
しかし、要求よりもハイスペックにしなければ先方の技術を活かしきれなかったのだ。

Fが土下座をしたのは、部下の失態を謝罪するためではなかった。
部下の主張を通すためだった。
事情を再度説明し、誠心誠意お願いした。
しかし、クライアントの理解は得られず、別の業者に乗換えられることとなった。

Fは憮然とした表情で事務所に帰ってきた。
職場の空気は凍り付いていた。
彼は眉も動かさずに言った。

「大したことじゃない・・・」

職場の空気が少し動いた。

「俺はいくらだって頭を下げてやる。みんな信じたことを思う存分やれ!」

社員たちの目が潤んだ。


Fは社員にいつも言っていることがあった。

「妥協をするな」
「仕事を選ぶな」
「夢中になれないならやめちまえ!」

それは自分にも言い聞かせていた。
そうしないと、くじけてしまいそうだから・・・

Fは純粋で誠実だった。
しかし不器用でもあった。
材料費や人件費を自社で負担してでも納得のいくものを作るような男だった。

高透過率、低反射率、超薄型、高強度・・・
あらゆる要求に応えてきたため、驚くべき技術力を持っていた。
大手のような量産やコスト低減はできない代わりに、カスタムに近い自由度があった。
しかし、その技術を複合的に活かせるクライアントはいなかった。
ロースペックな要求で価格を叩かれる日々だった。

それでも、ユーザーが喜ぶ顔を想像しながら製品に愛情を注ぎ込んできた。
儲けが小さくとも、発言力が小さくとも、胸を張って仕事をしてきた。

そんな気を張った日々が、Fを笑わない男にしてしまった。


ある日、一人の男が会社を訪ねてきた。

「ちょっと噂に聞きましてね。こちらのフィルムを見せてほしいんですが・・・」

長めの髪、髭、メガネ、中肉中背の男だった。
獲物を狙うような目が印象的だった。
ピンクと黒の、シャカシャカと音がするウインドブレイカーを着ていた。
Fは興奮を隠せなかった。

「あの・・・もしかしてMさん・・・ですか!?」
「そうですが・・・どこかでお会いしてました?」
「いえ、Mさんは有名人ですから!」

MはPerfumeとテクノロジーを結び付けた立役者だった。
PerfumeファンのFにとって、憧れの人だった。
しばらくして、実験室から声が挙がった

「これ・・・これですよ!」

Mの目が悪戯っ子のように光った。


12月7日。
京セラドーム大阪。
いよいよPerfume初の2大ドームツアーが始まる。

満員の客席。
恒例の手拍子がドームを揺らしていた。
客席からステージは遠い。
3人は豆粒のようにしか見えないだろう。
しかし、そんなことを気にする観客はいなかった。
みんなPerfumeにも楽しんでもらいたいと願っていた。

Fは2人の部下と一緒に客席にいた。
もう何年も前からPerfumeのファンだったが、ライヴに来るのは初めてだった。
なんとなく、自分はこの客席に相応しくないと感じていたからだった。
実際、笑顔でいっぱいの客席の中で、Fはいつものように憮然としていた。
しかし、今回は誰かに手を引っ張られているような気がしてここへ来てしまったのだ。

客電が落ちた。
悲鳴が挙がる。

ドーン!

ドーン!

ドーン!

爆発音のような大きな音がゆっくりと間をとって3回鳴った。
いったん静まる会場。
空気がいっそう濃縮される。

絶妙の間の後に1曲目のイントロがかかった。
それはまさかの『Twinkle Snow Powdery Snow』だった。
客席が沸騰した。

Fには、サブステージの真ん中でステップを踏む3人が人形のように見えた。
本物のPerfumeのはずなのに、夢を見ているような不思議な感覚だった。

Fは瞬きもせずに凝視していた。
Perfumeには心から共感する。
彼女たちの仕事に対する姿勢に、その努力に!
それはこのパフォーマンスから伝わってくる。

指の先まで妥協がない。
観客の喜ぶ顔を想像しながら創り上げてきたのが判る。

それなのに、現実ではないような感覚が拭えない。
こんな時でも、自分の仕事のことが頭から離れなかった。

その時、驚くべき光景が展開された。
突然、ステージの3人が粉々に砕け散ってしまったのだ。

えええ!?

音楽も中断してしまった。
騒然とする客席。
たくさんの小さな粒になった3人は客席のいたるところに飛び散っていった。
そして、飛び散った先で新たなPerfumeが出現した。
客席のいたるところで。
観客の目の前に!

ホログラフィーか!
いや、それに似たものか?

「うおおおおおおおおおお!」

客席は大興奮だった。
音楽が再開するとセンターステージの下から本物の3人が踊りながら登場した。
3人は幻影とピッタリとシンクロしている。

ああ、これは録画ではなくライヴなんだ!
素晴らしい・・・
Fは、どんどん進化していくPerfumeを誇りに思った。
映像技術に携わる者としても、世界に誇れる存在だと思った。
そして会場は光の雪で真っ白になっていった。


4曲を終えてMCに入った。

あ 「最初の曲、みんなビックリした?」
客 「ビックリしたー!」
あ 「でしょ~?あれね、すんごい技術のフィルム?って言うの?のお陰で実現したんよ」
客 「おおおお!」

え!?

の 「純粋に誠実に、仕事に愛情を注ぎ込んでいる方が作ってくださったんです」
客 「へ~~」
か 「なんかね、もの凄く共感しちゃって、嬉しくなっちゃいました」
あ 「これが日本の技術なんよ!Perfumeは日本の技術とたくさんの愛情を集めてできているんです!」

観客からの温かい拍手が止まらなかった。

あ 「フィルムを作ってくださった方、来てますか?ありがとうございます!」

Fは震えが止まらなかった。
まさか、こんなことが待っていたなんて!
Mはスペックの要求をするだけで、用途は最後まで教えてくれなかったのだ。

Fの中で、何かが一気に繋がった。
難問が解け、全てが相殺されて単純な美しい公式を見出したような爽やかさだった。
夢と現実は繋がっている。
注いだ愛情に気づいてくれる人たちがここにいた!
温かいものが頬を伝った。


ライヴが終わり会場を出ると本物の雪が舞っていた。
先ほどのTSPSのシーンが蘇ってくる。
空を見上げると滲んだ雪が虹色に輝いた。
気温は低いのに、身体が火照っていた。

ああ・・・ありがとう!

「さあ、明日からまたバリバリやろうな!」

そう言われてFの顔を見た部下たちは息を飲んだ。
そして涙が込み上げてきた。


笑わない男が笑っていたのだった。




**************************************************

※これはいつもの激しい妄想です。










関連記事

この記事のトラックバックURL

http://electrocat.blog113.fc2.com/tb.php/916-5565f9ba

コメント

衆目のあるところで読んではいけない
またまた妄想P文学炸裂してますねぇ。伯備線の車内で読んでたらスマホの画面が歪んでしまいました(/ _ ; )

高い技術があってもね、ニーズがないとビジネスに結びつかないんですよね、日本の町工場にはすんごい力持ってるところが多数あるのにユーザーに結びつけるエージェントがほとんどいないから。

自動車用の素材を医療器具に活用できないかと日々努力している方々もいるわけで、全く違う方面から学会にアプローチしたりしているんですよね。

最高峰の技術力とクリエイターを結びつけるエージェント役がPerfumeだなんて、しかも日本の素晴らしさを伝える役割も担ってくれているなんて、これ以上の賛辞があるでしょうか!!

ただ、氷結サマーナイトで観客の度肝を抜きカンヌライオンズであれだけのことをやらかしたTeam Perfumeですから、もしかしたら京セラドームで実現してるかもですよ。
なんたって東京ドーム公演前の、あ〜ちゃんの足のアクシデントを半ば妄想文学で予言した猫さんですからね。妄想の現実化を切望致しますです(^_^)
きますね!
久しぶりのこの号泣?シリーズ。
今度のドームでも何かやらかしてくれそうなTeamPefumeと
それを支える技術、人。
妄想とは思わせないモノがありますね!
お久しぶりで
失礼します。
妄想とは言え凄くリアルに感じます。
年末にこんな気持ちで参加されている方が居る気がしてなりません。

価格は安く性能や耐久性はそこそこあればいいって考え方が定着してしまった気がします。この先物作りの意識ってどうなって来るんでしょうかね。

久しぶりのコメントがこんな感じですみません。
嬉しいっす
私の居る金属業界は、今こんな感じです 
育てるんだという気概の無い世界ですね メイドインジャパンの未来に期待したい僕は嬉しくて泣きそうです Perfume なら尚更ですね
>ヤジオショーさん
コメントありがとうございます^^

>伯備線の車内で読んでたらスマホの画面が歪んでしまいました(/ _ ; )

こういうのは電車移動中に読むのが一番いいかもしれません。
暇つぶしにww

>高い技術があってもね、ニーズがないとビジネスに結びつかないんですよね

日本はまだまだ総合力を発揮できていないですよね!
Perfumeを見て何かが動くといいですね~

>最高峰の技術力とクリエイターを結びつけるエージェント役がPerfumeだなんて
>日本の素晴らしさを伝える役割も担ってくれているなんて

ええ、そこがこの話の気持ち悪い部分ですww
でも、ライゾマだってこのフィルム屋と大して変わらないと思うんです。
だからこの話のようなことはすでに起きているとも言えます。

>妄想の現実化を切望致しますです(^_^)

はい。僕もそれを切望していま~す(^-^)/
>おとわ しゅなさん
コメントありがとうございます^^

>きますね!

きましたか?
かっしかしなしゅなたすには物足りないかと思っていました(笑)

>今度のドームでも何かやらかしてくれそうなTeamPefumeと
>それを支える技術、人。
>妄想とは思わせないモノがありますね!

この妄想はちょっとオーヴァーですが、何かあるでしょう!
何かがぁ( ̄□ ̄;)!!

さて、違うパターンの妄想いきますかww
>mtstさん
コメントありがとうございます^^

>妄想とは言え凄くリアルに感じます。
>年末にこんな気持ちで参加されている方が居る気がしてなりません。

Team Perfumeの仕事はいろんな意味で理想的だと思います。
複合的な表現手段が、複合的な技術によって支えられているのは事実でもあります。
いろんなものを繋げて可能性を広げていく姿は、なにか一つの生命体のようなたくましさを感じますね。

>この先物作りの意識ってどうなって来るんでしょうかね。

スポーツの分野でさえ挑戦する姿の尊さを評価しなくなっています。
産業も同じですね。
Perfumeが挑戦する尊さを世界に思い出させてほしいものです。
>kintaさん
コメントありがとうございます^^

>私の居る金属業界は、今こんな感じです 

そうでしたか・・・
他にも同じ様な業界をいくつか知っています。
優れた技術は、国として守る姿勢が欲しいですね。

>メイドインジャパンの未来に期待したい僕は嬉しくて泣きそうです
>Perfume なら尚更ですね

日本のメイドさんの未来?( ̄∀ ̄)
いや、失礼m(_ _)m

モノに想いを込める姿勢。
そして優れた五感。
これだけは、外国が真似できない日本人らしさだと思います。
それをさらに磨けば、日本は世界の中でプロデューサーの役割を勝ち取れると思います。
日本人が自分たちの強みにもっと気づかなければなりませんね!

コメントする

管理者にだけ表示を許可する

 

Template Designed by めもらんだむ RSS
special thanks: Sky Ruins DW99 : aqua_3cpl Customized Version】